吊り橋のある谿【九州脊梁山地ヤマメ幻釣譚<24ー4>】
大きな砂防堰堤の上部に掛かる吊り橋がある。往時、山仕事をする人たちが通った橋だろう。だが、この橋は、渡れない。横板が、手前から2メートルほどの所まで外れており、ジャンプして飛び渡れる距離感ではない。残された板そのものも半ば腐って、崩れ落ちる寸前である。使われなくなって長い年月が経過していることを語る物件である。その堰堤の上流部にコンクリートの沈み橋があるが、それもわずかな増水で水流に浸かる。地元の人たちは、四輪駆動の軽トラックでざぶりと乗り入れ、たちまち渡り切って、森の奥へと遡ってゆく。その沈み橋の上部に、二筋の沢がある。さぼど大きな谷ではないが、奥行きは深く、黒々と横たわる椎葉の原生林を源流とする水脈である。15年ほど前のことになるが、ここを通りがかり、竿を出してみたところ、思いがけない釣果を得た。同行...吊り橋のある谿【九州脊梁山地ヤマメ幻釣譚<24ー4>】